スチュワーデス物語 Part10
「スチュワーデス物語 Part9」では鼻濁音で四苦八苦。
そのような中、座学と平行して実技の授業が始まった。
これは機内そっくりに作り上げられたモックアップ(模型)で
本物の料理やワインを使っての訓練。
スチュワーデスのドラマにもよく出てくるが
お互いがお客様とスチュワーデスになっての
サービス実技である。
田舎者の私はフォアグラやキャビアーなど
見たことも聞いたこともない。
バナナもフォーク&ナイフで器用に
皮をむいて食べなければならない。
オードブルなどを取り分けるサーバーの使い方も
片手ではどうにもならない。
「雪印」しか知らない私の目の前に
青かびのはえたチーズが出てくる。
「赤玉ポートワイン」が私の中のワインだった。
甘口だ辛口だとなったら
もう、わけが分からなかった。
そして、毎日のようにテスト。
寮に帰れば、食事、入浴もそこそこに
次の日のテスト勉強が待っている。
とにかく毎日が訓練と予習復習で
アップアップしていた。
時期は丁度秋から冬にかけてである。
それでなくても物悲しく人恋しい季節に
通勤で通る蒲田の商店街から流れてくるのは
欧陽琲琲の歌う「雨の御堂筋」というマイナー調メロディー。
この歌は寒々しい「灰色の東京」のイメージと
重なって、今でもこれを聴くとブルーになる。
私は大学受験をしていないが
この訓練生の時が私の人生で受験に匹敵するほど
勉強した時期だったのではと思う。
誰にいつ言われたのか思い出せないのだが
「あなた達訓練生を一人前にするのにどれくらいの費用がかかるか知っていますか?
500万円ですよ。」
500万円ですよ。」
といわれた事があった。
どうも、この言葉は私の記憶違いのような気もするが・・。
もしこれが事実ならどういう計算でこうなるのか
一度どなたかに聞いてみたい。
当時、飛ぶ鳥落とす勢いだった日本航空には
半年間、これだけ手間隙賭け
丁寧にスチュワーデスを訓練する
時間とお金があったのだ。
この訓練期間も徐々に短期になって
こんな話を後輩達にすると驚いていた。
今は昔の話である。