日常の中の~
読書好きの知人と話をしていたら
彼女はほとんどの本を「ブックオフ」で買っているという。
今まで考えてもみなかったが
先日近くを通ったので立ち寄ってみた。
若者の好みそうなコミックやCD DVDなどが
所狭しと並んでいる。
二階に上がって行くと普通の書店と同じように
様々なジャンルの本が綺麗に整頓されて
書棚に並べられていた。
全く手垢の付いていない本が原価の約半値
ついつい四冊も買ってしまった。
その中の一冊が豊田正義著の「消された一家」である。
副題として「北九州・連続監禁殺人事件」とある。
日本中の耳目を集めたこの事件は犯罪史上稀に見る
凶悪かつ残忍なものだった。
私はこの事件が発覚した時
今住んでいるマンションから少し離れた所に住んでいた。
当時上空には取材ヘリが大きな音を立ってて飛び回り
大勢のメディアが殺気立った取材をしていた。
初公判には長蛇の列ができ
皆の関心の高さが伺われた。
その頃のワイドショーや週刊誌にとっては恰好の題材で
興味半分それらから得た知識で
友人達とあーだこーだと犯人や被害者となった方々の
話をしていた事を思い出す。
今回たまたま目に留まったこの一冊の本。
もうほとんどの人がこの事件を日常で思い出すことはないだろう。
しかし、私はどうしても忘れる事ができずにいる。
なぜなら、我が家からこの恐るべき
戦慄の犯行現場となったマンションが
眼下にいつも見えているからである。
ベランダに出て朝の清々しい空気を胸いっぱい吸い込みながら
ふと下を見ると目に入ってくる。
山の緑を眺めふと下を見るとその現場が否が応でも見えてくる。
この「日常」の景色の中に「非日常の世界」があった。
それも我々の想像を絶する
読んでいて途中でページから目を背けたくなるような
彼らにとってのおぞましい「日常の生活」がそこに確実にあった。
この本を読みながら時々ベランダに出ては
マンションを見てみた。
現実の世界に身を置きながら
どんなに逞しく想像力を働かせてもどうやっても
この犯罪に係わった加害者・被害者の事を
頭に描くことができなかった。
あまりにも非現実すぎていた。
人間のはかり知れない闇の部分を考えている。