恐怖の電話応対
(今朝の空)
昨日は、電話応対の授業をした。
専門学校の卒業生は即戦力を求められる。
特に受付業務に付くことの多い医療ビジネス科の生徒達は
新入りと言えども否応なく電話を取らなければならない。
昔、新入社員研修で一日がかりの研修をした事がある。
丸一日かけ講師を依頼してまで研修をしなければならない
電話応対とは・・・。
携帯電話が普及し、今時の若い人たちは
電話自体には慣れているようだが
ちょっと改まった電話になると
まったくと言っていいほどできなくなる。
電話は相手の顔が見えない。
いつかかってくるか予測もつかない。
新入りの時は自分の会社名もしどろもどろ。
上司の名前も覚えてない。
組織図が頭に入っていない。
勤務先の専門用語が分からない。
このようにないないづくしに持ってきて
敬語が遣えない。 |
電話は互いの顔が見えないからこそ、笑顔がいのち、言葉がいのち。
彼ら彼女達の恐怖の元はその言葉遣いなのだが
尊敬語、謙譲語の区別がやっとつくかつかない程度の生徒にとって
それを遣いこなしながら応対をするとなると殆どパニックになる。
そこで、授業では本物そっくりの器械を使って練習をしている。
私が親機を操作し二つの子機を生徒に順じまわしながら
次々とかけていくのだが
最初のベルの音にビックリして飛び上がる生徒も。
ここから緊張感がいやがうえにも増してくる。
これは録音も出来るので後で再生し
本人に聞かせるが耳を塞いで聞こうとしない。
そんな時は「○○さん、あなたが聞くまで何度でも流すけどいい?」
(昨日のH教官並みかな?)
自分の順番が近づいてくると、もう、気持ちは上の空。
人の電話応対など聞いちゃいない。
視線は一点を見つめぶつぶつと何やら独り言。
教科書やプリント類は一切見せないようにして
いきなりのぶっつけ本番。
どんなツッパリ野郎や態度の悪い生徒も
(いるんです、クラスに必ず一人や二人、この手合いが)
この授業になるとチワワのように震えている。
私はにこやかに電話をしながら、バンバン攻めて行く。
こうして溜飲を下げる。
聞き取れなかった会社名や名指し人の名前を
隣の人にこっそり聞いている。
(オイ、オイ 電話は基本的に受けてる本人の耳にしか聞こえていないのよ~。)
衆人環視の中、自分の間違った言葉遣いや応対が
大音量で流されるのだから
恥ずかしさで下を向いたり顔を手で覆ったり。
中にはアルバイトで慣れている生徒もいるが
これが妙な癖がついていてそのままじゃ遣えない。
何度もやり直して癖を矯正する。
スムーズに出来た生徒に対しては他の生徒から
尊敬と感激の「ウワォ~~!」の声と拍手の嵐。
生徒が使った子機は握り締めていた手の汗で光っている。
この緊張感がたまには必要。
いつも優しいばかりの私じゃないのよ・・・と
ここで強く印象付けておく。
そして、数コマの授業で最初は何も言えなかった子が
練習を重ねると
「はい、かしこまりました。山田でございますね。・・・・・・・・お待たせいたしました。まことに申し訳ございません、あいにく山田は席を外しておりまして、戻ってまいりますのは3時ごろになるかと存じますが、もし、お差し支えなければ私がご伝言を承りましょうか?」
組織を代表して出る電話。心して応対してほしい。
年度末最後の授業で生徒達にアンケートをとると
あれだけ恥をかきながらも楽しくて好きだった授業の一位は
この電話応対なのだから・・・
分からないものだ。